ツボについて

東洋医学、ことに鍼灸では経穴(いわゆるツボ)と、ツボを結ぶラインで気が流れるルートだと言われる経絡が、治療上大変重要な概念とされています。
とりわけ「ツボ」に関しては、診断における身体の反応点、また治療における効果的な刺激部位として、鍼灸にとってこれを抜きにしては語れないほど重要です。
その探求には数千年の歴史があり、各国や各流派により独自の理論が存在します。(中国、韓国、日本の間でツボの位置にいくつかの相違があり、それが統一されるという発表が最近なされました)

ツボの位置というのはある程度共通しているのですが、どのツボを治療に使うのか、また同じツボであっても、人により多少異なることもあります。
経験豊富な臨床家は、必ずしも教科書通りにツボを決めるのではなく、患者さんの身体の反応が現れる部位をツボとして使ったりしていました。

ツボはトリガーポイントだった?

数多くのツボの中でも臨床的に重要で、効果的な刺激点として考えられているものに「阿是穴」というものがあります。「阿是」とは中国語で「あーっそれ!」という意味です。
この阿是穴とは鍼を刺したり、指で押したりすると「あーっそれ!」となるツボという意味で、真に痛い部位のことであり、原始的なトリガーポイントのことであったと推測されます。
そして元々ツボとは、この阿是穴のことを意味していたと思われます。

ツボのことを専門的には「兪穴」といいますが、兪は「それです」という意味なのです。ですから元々は、シンプルに本当に痛い場所を捜していたのでしょう。
段々と理論化されるに従って、「阿是穴=あーっそれ!」という本体から離れてしまったと思われます。

独自の世界を築いていったツボ

特に漢の時代(紀元前202年~紀元後220年)に完成したとされる、陰陽五行思想(一種の宗教思想)の影響により、経絡というものが精緻に理論化されました。
しかし精緻であるがゆえに、その理論に呪縛され、観念化された経絡による治療が主体となっていき、次第に阿是穴のことは、忘れ去られていきました。
捜し方が確立されないままに、但し本当に見つけられたら、すごい効果であるという記憶だけを残したまま・・・

その後、各国、各流派で、効果的な刺激点を捜すための物差し(治療点を決定するための診断基準)が探求されてきました。それらを詳細に見ると、それぞれトリガーポイントの一つの側面を示していることが多いのです。
例えば、良導絡という治療法があるのですが、この治療法は皮膚の通電抵抗を測定し、治療点を捜すという方法です。皮膚の通電抵抗が減弱している場所を治療点とするのですが、トリガーポイント形成局所にも交感神経緊張により、同じような現象がみられます。
また、その他の治療法でも、圧痛、硬結、結節、発汗、厥冷、陥下など多くの物差しが、トリガーポイントの一側面をあらわしていると考えられます。

しかし、それぞれがトリガーポイントの一側面をとらえてはいるものの、断片的であり、効果的な刺激点という実体を検索するための物差しとしては、不十分であると私は考えます。
また多くは口伝、経験によるもので、科学的視点や再現性に欠けているのではないでしょうか? このように、各流派で探求してきた、効果的な刺激点を統合する概念こそが「トリガーポイント」であると私は考えております。